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歌人・郷隼人を詠む [こころ]

戻りえぬ淵の深さよ殺(あや)むてふことばつかはぬ服役囚の

「朝日歌壇」を読んでいた方はご存じかもしれませんが、
郷隼人さんはアメリカで殺人の罪を犯し、
カリフォルニアで服役中の歌人です。

「殺める」ということばを直接使った歌を私は一首しか知りません。

郷さんのことは当初から好きで、「うたのわ」の好きな歌人に入れていましたが、
それを見た方でしょうね、「人を殺した人の歌がすばらしいなんて」という
意味のお歌を読まれたこともありました。
(抹消されたのか退会されたのか、今このお歌をみつけることはできません)

島秋人など死刑囚歌人の例はあるのですが、まだまだ偏見の目は厳しいのでしょう。


初ものの芹たぎる湯に放ちつつはるか異国の囚獄(ひとや)おもへり

郷さんの「独活三葉山葵筍紫蘇茗荷思いつつ食む獄食スパゲティ」に寄せて。
罪の軽重を云々しているのではありません。ひたすらソウルフードが恋しかろうと。


最近、笹公人さんのツイートに郷さんの歌が度々引用されるので
ちょっと驚いています。
笹さんと郷さんのうたは対極にあるような気がしていましたが、
案外そうでもないのかもしれません。

笹さんの引用された歌を転記します。

ロープ無し縄跳びの技編み出して/獄庭の隅にエクササイズす

指折りて五・七・五と歌詠めば/真似て指折るメキシカンの囚友(とも)

毎日のビタミン剤を欠かさずに/摂(と)り健康に留意す死刑囚


ちなみに、3首めのうたは冗談でも諧謔でもありません。
仮釈放なしの終身刑服役囚が刑務所を出るとき、それは
所内の病院では対処できないほど病気が重くなって、
外部の病院に移される時なのです。
刑務所を出るときは死ぬとき。
重罪を犯した服役囚でもやはり死は怖いのだ、という重い歌なのです。


LONESOME隼人

LONESOME隼人

  • 作者: 郷 隼人
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本



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コメント 4

くまんパパ

「朝日歌壇」の一種の名物男・郷隼人氏に対して、歌の批評から懸け離れた、そういう言い方をする人がいるんですか~。
・・・なんか相容れないな~という感じです。

当地選出の森山真弓・元法相も郷氏の愛読者ですよ~ん。

連合赤軍(・・・でしたっけ?)の重信房子の歌集もなかなかのものですが、こういう人は、「テロリストの歌なんて」と否定するんでしょうかね。

・・・詩人・歌人なんて人格破綻者と紙一重で(・・・言い過ぎか)、そもそもそんなにご大層なものじゃないと思いますけどね~(笑)

by くまんパパ (2010-04-19 12:24) 

purpure_aster

そうなんですよねぇ……。
当時(今もたぶんそうでしょうが)郷隼人を「お気に入りの歌人」に入れている人を
見たことがないので、明示されてはいなかったものの
私に宛てて詠まれたうただと思います。
素人かプロかはわかりませんし、感じ方は人それぞれですが
歌詠みのなかにそう明言し、なおかつそれを歌にしてしまう人がいることには正直違和感を感じました。

死刑囚の歌については「黒衣の短歌史」の中井英夫氏が
特殊環境における一種ヒロイズムに似た高揚感や諦念をやんわり批判していますが、
それはあくまで歌に対する批評であって、人となりに対するものではありません。

その辺、まだまだ難しいところですねぇ……。
by purpure_aster (2010-04-20 18:30) 

ジョン

13年4月14日に2首載っています。
by ジョン (2013-04-14 11:16) 

purple_aster

ジョンさま

コメントをいただいたことに気づくのが遅れまして申し訳ありません。
お知らせいただき、ありがとうございました。
探して読んでみます。

by purple_aster (2013-06-14 00:32) 

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