題詠百首 余滴 [題詠100★2023]
題詠百首は今月前半、仕事がめっちゃ忙しかったので、
2月に終えておいてよかったです。
ところで。
私は新語混じりの文語旧仮名詠みですが
(結社に入ったとき、旧仮名の方が合っていると言われた)、
古文は好きだったとはいえ間違いも多く、未だに辞書で確認することも多いです。
文字にしてみて「なんか変だ」という直感は大切です。
気になるのは旧かな新かなの混在より文法の癖。
題詠百首ではありませんが、連体形終止が意図せずに癖で、
画一的と感じるアカウントがあり、どうにも気になって
まったく「いいね」できなかったことがあります。
自身を省みても、文法や仮名間違いは自覚しなければ改善されません。
私自身、文法間違いはほぼなかったものの、
仮名間違いはしばしばだったので未だに確認します。
仮名の混在は、意図的にする方もありますが
(結社の先輩で実際にいます)
基本的に新仮名か旧仮名かが固まっていない限り
読み手に間違いと思われることも多いので
難しいところです。
その他、他所の結社の方から
一首において漢字と仮名の配分が悪いと言われたことがあり、
天地の長さとともに、その点は気をつけています。
2月に終えておいてよかったです。
ところで。
私は新語混じりの文語旧仮名詠みですが
(結社に入ったとき、旧仮名の方が合っていると言われた)、
古文は好きだったとはいえ間違いも多く、未だに辞書で確認することも多いです。
文字にしてみて「なんか変だ」という直感は大切です。
気になるのは旧かな新かなの混在より文法の癖。
題詠百首ではありませんが、連体形終止が意図せずに癖で、
画一的と感じるアカウントがあり、どうにも気になって
まったく「いいね」できなかったことがあります。
自身を省みても、文法や仮名間違いは自覚しなければ改善されません。
私自身、文法間違いはほぼなかったものの、
仮名間違いはしばしばだったので未だに確認します。
仮名の混在は、意図的にする方もありますが
(結社の先輩で実際にいます)
基本的に新仮名か旧仮名かが固まっていない限り
読み手に間違いと思われることも多いので
難しいところです。
その他、他所の結社の方から
一首において漢字と仮名の配分が悪いと言われたことがあり、
天地の長さとともに、その点は気をつけています。
題詠100★2023(題詠百首) [題詠100★2023]
2023-001:引
和紙になるカードひらけば水引のちひさき亀は波間をおよぐ
2023-002:寝
憂きことのおほかりければ寝ねがてに思ひめぐらすひとよの迷路
2023-003:古
飴いろの古酒(くーす)はとろり甕底にそのとしつきを揺蕩うてゐる
2023-004:耳
手のひらにまろぶ土耳古の石ひとついよよ曇れる今年のゆくへ
2023-005:程度
誇るなき民の程度をまとひつつ排外主義のかいぶつはゆく
2023-006:確
ゼロ打ちの当確だけは聞くまじと気を励ましてゆく投票所
2023-007:おにぎり
他人(ひと)の手になるおにぎりを食へぬ子の多かりと聞く二十一世紀
2023-008:較
較ぶるは詮なきことよパック詰め取つてはもどす老爺をながむ
2023-009:一時
をちこちに慌てるけはひ一時(いつとき)の小雨をよけて干しもの消ゆる
2023-010:愚
引き当てし愚者のカードのおもてうら鏡のなかの貌を見つめる
2023-011:イメージ
人々はとりのこされて花ぐはしひとりあるきのイメージソング
2023-012:娯
あな醜(みにく)うす笑ひもて蔑みを娯楽となせる軍旗の群れは
2023-013:講
対等にあたふ講和のなかりせば果たてのみえぬいくさかなしき
2023-014:ほんのり
猫吸ひと人のいふらむほんのりと日向くさきをたのしむこころ
2023-015:戸
君待てばおぐらき路地の枝折り戸にすがれ咲きたる連翹のはな
2023-016:険
あさぼらけ宿ゆながむる山険(やまさか)に仙女のごとくさくらひともと
2023-017:俳句
教科書にいかな俳句を読みしかと世代を超えて芭蕉のはなし
2023-018:就
就労もさせず扶けもあたへずは霞をくへと言はぬものかは
2023-019:賀
学窓を去りていくとせ老師より年賀じまひの葉書とどきぬ
2023-020:みじめ
加害者をもはや恨みじめがしらを押さふるさまに胸ふたがりぬ
2023-021:雫
賢治らの足跡たどる雫石やうやう芽吹くはるの樹々はも
2023-022:重
ずつしりと手に重りたる晩白柚わが厨辺を灯すきさらぎ
2023-023:毎日
なにとなく毎日のすぎあらたまのひと月をはや老いたりといふ
2023-024:禿
最後まで読みても『禿の女歌手』はまる迷路を抜けられもせず
2023-025:混
「混ジャパ」の一語あやふし純血に道あやまりしすぎゆきを思ふ
2023-026:子ども
まつりごとあるは誰がためなくするにちから尽くせよ子ども食堂
2023-027:著
書き割りのうちに聳ゆる金閣に見つるMISHIMAの愛著(あいぢやく)のいろ
2023-028:役所
一通の書類をかかへ役所ぬちたらひまはしの半日の過ぐ
2023-029:絶
絶食を忘れましたと受付で言ひ訳をする背中ちひさし
2023-030:グラム
走り去る光のむかふ一瞬を開きたるドアゆピクトグラムは
2023-031:貿
貿易風はるけき陸(くが)ゆ吹き来たり見知らぬ国のたからをはこべ
2023-032:抜
くらやみ坂そぞろ行きつつ抜刀の曲者はしる夜を思ひけり
2023-033:ひらひら
凍て蝶のましろき影のひらひらと季(とき)のあはひを渡りて消えぬ
2023-034:倣
老いらくのひとよは一日、尼寺のひそみに倣ふ冬の手しごと
2023-035:測
ひと跳びの距離測りかね水たまりの真中に立ちて子は笑ひけり
2023-036:削除
削除キー押したるごとくなきものにされるであらう弱者の群れは
2023-037:荻
みづうみの小舟の群れは浜荻の葉ずれの音に風向きをよむ
2023-038:ゲーテ
輪廻とふ紡ぎ車をのがれ得ぬゲーテの眼(まな)にスピカのひかり
2023-039:吊
連なりて軒に揺らるる吊るし柿ながむる我も日を吸うてをり
2023-040:紺
瑠璃紺のターバンのした怯えたる牝鹿のやうなまなざしの永遠(とは)
2023-041:覗
覗き見る洞のおくには異世界に我をいざなふ出口のひかり
2023-042:爽やか
爽やかな笑み売りたるが務めなれ才を問はれぬ世襲政治家
2023-043:掻
手に入らぬ薬あること掻爬てふ「罰」ををんなに負はせつづける
2023-044:批
あたらしく批准決めたる国の名の日本ならぬをICANは告ぐ
2023-045:筏
川岸にたたずむ我をゆつくりと海にいざなふ花筏かな
2023-046:憐れ
憐れみと蔑みの差は紙ひとへ素足の老いにひとの目ははや
2023-047:塀
いつのまをコンクリートに変はりたる黒塀ぬちに住むひともまた
2023-048:伺
お伺ひ立てねばならぬおやつとふ褒美のあぢを猫知つたれば
2023-049:水仙
水仙のはつはな手折るまいとしの花盗人をわれはかなしむ
2023-050:範
うたがへる範囲を赤で囲みてはとみに憂ふる市政のゆくへ
2023-051:履
バンカラの思ひ出ばなし下駄履きはモノクロ写真にひつそりと生く
2023-052:全体
アーレントよみがへりけり来たるべき全体主義を目のまへにして
2023-053:党
ネコ的にあれとふ肉球新党はくさぐさの場にゆるく集へり
2023-054:いよいよ
打ちつづく値上げの波の絶えずして小部屋(をべや)の冬はいよいよ寒し
2023-055:釘
メルカリに藁人形と五寸釘あがなふ人の闇おもひけり
2023-056:謙
謙譲と卑屈のはざま政治家に敬語をつかふメディア増えにき
2023-057:ライン
抜け落ちしラインストーンをそのままにヴィンテージとふいぶし銀はも
2023-058:箇
黒塗りの箇所おほくして何ごとも分からぬままに国かたぶきぬ
2023-059:診
十年(ととせ)まへ我を診察せし医師にふたたび会へば「元気?」とわらふ
2023-060:醤油
盛り上がる黄身に醤油をひとたらし米どころなる旅の朝めし
2023-061:庇
つばめの巣去年(こぞ)のすがたをそのままに庇(ひさし)のかげでひつそりとある
2023-062:魔
ロウセキに描く魔方陣ろぢうらに見知らぬ国の出口はありや
2023-063:こぶし
土色のいぶしこぶしに倒木のいのちを継いで萌え出づる芽は
2023-064:閣
いはれなき差別にあらがふ人の並む海員閣のシューマイうまし
2023-065:状
戻り来し葉書いちまい状差しに去りにしひとの記憶とどむる
2023-066:二階
二階家の軒先にある干しものを見上げておもふ老いの独り居
2023-067:乞
天災の地におこるたび乞ひ祈(の)むる人とはかくもちからなきもの
2023-068:捕
草むらのかたへに何を捕へしか意気やうやうと猫もどり来ぬ
2023-069:トンネル
トンネルにありて刹那を対峙する我でありつつ我ならぬもの
2023-070:請
「行きすぎた個人主義」なと人の言ふ安普請なる戦後の果てに
2023-071:感謝
権利よと言ひつつ強ひる感謝にはつはものどもの論理がにじむ
2023-072:惰
立て込める仕事のあひにてきたうな惰性でつくる三度の食事
2023-073:からくり
人形の動きさまざま回るたび飽かず眺むるからくり時計
2023-074:腫
立ちしごと浮腫んだ足をもてあまし電車にそつと靴を脱ぎけり
2023-075:案内
とし経れば道を聞かるること増えて案内(あない)のくちも達者になりぬ
2023-076:灰
鉢底はあさき湖底のたゆたひにただ灰釉(くわいいう)の色ふかくして
2023-077:畳
たまさかの宿なればよく日常は離(か)れてひさしき畳のくらし
2023-078:スマート
あさぢふのうさぎ小屋には要らぬものとしてスマート家電はありぬ
2023-079:僅
夜を徹し手に汗握るたたかひはワントライとふ僅差にをはる
2023-080:載
選歌なき結社にをれば駄作とも掲載さるる歌稿十五首
2023-081:手ごたえ
ゆりかもめ狭き日なたに吹きだまる川面にあはき春の手ごたへ
2023-082:侮
痛々しき誤字をネットに見ればこそ侮るなかれ学生時代
2023-083:浄
カードキー挿せばはつかな気配あり空気清浄機われを迎える
2023-084:授業
ウェブカメラに映る背後をかたづけて準備ととのふオンライン授業
2023-085:潤
休日のまへの一夜を潤(うる)かせば豆つややかに煮らるるを待つ
2023-086:派手
水槽に派手な衣装を誇るごとターンを決めるウミウシのあり
2023-087:汰
賀状には無沙汰わびつつ「そのうち」は訪はざることと互ひに知りぬ
2023-088:メンバー
オリジナルメンバーのままひとり欠け四十年(よそとせ)ののち聴くライディーン
2023-089:癒
ぬくもりは癒やしにあれな犬ねこを抱いて眠る兵士らの夜
2023-090:諮
おしとほすこと常なれば諮問とは名ばかりとなるこの国のすゑ
2023-091:ささやか
ささやかな夏のひかりを閉ぢ込めてゼリーは揺れるガラス器のなか
2023-092:房
うつくしき色を欲りてはヨウシュヤマゴボウの房を摘むさんぽみち
2023-093:預
あまつさへ偽預言者が跋扈する色のなき世のせまり来るとき
2023-094:希望
希望とふ花言葉もつ夢幻なれマツユキソウは誰が森に咲く
2023-095:滴
日を透かすカーテンのうち点滴のしづく眺むる午後の永遠
2023-096:雌
買ひきては種を植ゑたるアボカドの雌雄異株とて葉を賞むるのみ
2023-097:天気
まどの外(と)にふる天気雨あの丘のお稲荷さんに嫁入りがある
2023-098:辱
かろがろと和平を言へず隆辱が日常なりし軍場(いくさば)あれば
2023-099:備
貧しきにあてがふごとく放たれる期限まぢかの備蓄食料
2023-100:掛
ふたいろの旗はひつぎに掛けられて野辺の送りはどこまでつづく
和紙になるカードひらけば水引のちひさき亀は波間をおよぐ
2023-002:寝
憂きことのおほかりければ寝ねがてに思ひめぐらすひとよの迷路
2023-003:古
飴いろの古酒(くーす)はとろり甕底にそのとしつきを揺蕩うてゐる
2023-004:耳
手のひらにまろぶ土耳古の石ひとついよよ曇れる今年のゆくへ
2023-005:程度
誇るなき民の程度をまとひつつ排外主義のかいぶつはゆく
2023-006:確
ゼロ打ちの当確だけは聞くまじと気を励ましてゆく投票所
2023-007:おにぎり
他人(ひと)の手になるおにぎりを食へぬ子の多かりと聞く二十一世紀
2023-008:較
較ぶるは詮なきことよパック詰め取つてはもどす老爺をながむ
2023-009:一時
をちこちに慌てるけはひ一時(いつとき)の小雨をよけて干しもの消ゆる
2023-010:愚
引き当てし愚者のカードのおもてうら鏡のなかの貌を見つめる
2023-011:イメージ
人々はとりのこされて花ぐはしひとりあるきのイメージソング
2023-012:娯
あな醜(みにく)うす笑ひもて蔑みを娯楽となせる軍旗の群れは
2023-013:講
対等にあたふ講和のなかりせば果たてのみえぬいくさかなしき
2023-014:ほんのり
猫吸ひと人のいふらむほんのりと日向くさきをたのしむこころ
2023-015:戸
君待てばおぐらき路地の枝折り戸にすがれ咲きたる連翹のはな
2023-016:険
あさぼらけ宿ゆながむる山険(やまさか)に仙女のごとくさくらひともと
2023-017:俳句
教科書にいかな俳句を読みしかと世代を超えて芭蕉のはなし
2023-018:就
就労もさせず扶けもあたへずは霞をくへと言はぬものかは
2023-019:賀
学窓を去りていくとせ老師より年賀じまひの葉書とどきぬ
2023-020:みじめ
加害者をもはや恨みじめがしらを押さふるさまに胸ふたがりぬ
2023-021:雫
賢治らの足跡たどる雫石やうやう芽吹くはるの樹々はも
2023-022:重
ずつしりと手に重りたる晩白柚わが厨辺を灯すきさらぎ
2023-023:毎日
なにとなく毎日のすぎあらたまのひと月をはや老いたりといふ
2023-024:禿
最後まで読みても『禿の女歌手』はまる迷路を抜けられもせず
2023-025:混
「混ジャパ」の一語あやふし純血に道あやまりしすぎゆきを思ふ
2023-026:子ども
まつりごとあるは誰がためなくするにちから尽くせよ子ども食堂
2023-027:著
書き割りのうちに聳ゆる金閣に見つるMISHIMAの愛著(あいぢやく)のいろ
2023-028:役所
一通の書類をかかへ役所ぬちたらひまはしの半日の過ぐ
2023-029:絶
絶食を忘れましたと受付で言ひ訳をする背中ちひさし
2023-030:グラム
走り去る光のむかふ一瞬を開きたるドアゆピクトグラムは
2023-031:貿
貿易風はるけき陸(くが)ゆ吹き来たり見知らぬ国のたからをはこべ
2023-032:抜
くらやみ坂そぞろ行きつつ抜刀の曲者はしる夜を思ひけり
2023-033:ひらひら
凍て蝶のましろき影のひらひらと季(とき)のあはひを渡りて消えぬ
2023-034:倣
老いらくのひとよは一日、尼寺のひそみに倣ふ冬の手しごと
2023-035:測
ひと跳びの距離測りかね水たまりの真中に立ちて子は笑ひけり
2023-036:削除
削除キー押したるごとくなきものにされるであらう弱者の群れは
2023-037:荻
みづうみの小舟の群れは浜荻の葉ずれの音に風向きをよむ
2023-038:ゲーテ
輪廻とふ紡ぎ車をのがれ得ぬゲーテの眼(まな)にスピカのひかり
2023-039:吊
連なりて軒に揺らるる吊るし柿ながむる我も日を吸うてをり
2023-040:紺
瑠璃紺のターバンのした怯えたる牝鹿のやうなまなざしの永遠(とは)
2023-041:覗
覗き見る洞のおくには異世界に我をいざなふ出口のひかり
2023-042:爽やか
爽やかな笑み売りたるが務めなれ才を問はれぬ世襲政治家
2023-043:掻
手に入らぬ薬あること掻爬てふ「罰」ををんなに負はせつづける
2023-044:批
あたらしく批准決めたる国の名の日本ならぬをICANは告ぐ
2023-045:筏
川岸にたたずむ我をゆつくりと海にいざなふ花筏かな
2023-046:憐れ
憐れみと蔑みの差は紙ひとへ素足の老いにひとの目ははや
2023-047:塀
いつのまをコンクリートに変はりたる黒塀ぬちに住むひともまた
2023-048:伺
お伺ひ立てねばならぬおやつとふ褒美のあぢを猫知つたれば
2023-049:水仙
水仙のはつはな手折るまいとしの花盗人をわれはかなしむ
2023-050:範
うたがへる範囲を赤で囲みてはとみに憂ふる市政のゆくへ
2023-051:履
バンカラの思ひ出ばなし下駄履きはモノクロ写真にひつそりと生く
2023-052:全体
アーレントよみがへりけり来たるべき全体主義を目のまへにして
2023-053:党
ネコ的にあれとふ肉球新党はくさぐさの場にゆるく集へり
2023-054:いよいよ
打ちつづく値上げの波の絶えずして小部屋(をべや)の冬はいよいよ寒し
2023-055:釘
メルカリに藁人形と五寸釘あがなふ人の闇おもひけり
2023-056:謙
謙譲と卑屈のはざま政治家に敬語をつかふメディア増えにき
2023-057:ライン
抜け落ちしラインストーンをそのままにヴィンテージとふいぶし銀はも
2023-058:箇
黒塗りの箇所おほくして何ごとも分からぬままに国かたぶきぬ
2023-059:診
十年(ととせ)まへ我を診察せし医師にふたたび会へば「元気?」とわらふ
2023-060:醤油
盛り上がる黄身に醤油をひとたらし米どころなる旅の朝めし
2023-061:庇
つばめの巣去年(こぞ)のすがたをそのままに庇(ひさし)のかげでひつそりとある
2023-062:魔
ロウセキに描く魔方陣ろぢうらに見知らぬ国の出口はありや
2023-063:こぶし
土色のいぶしこぶしに倒木のいのちを継いで萌え出づる芽は
2023-064:閣
いはれなき差別にあらがふ人の並む海員閣のシューマイうまし
2023-065:状
戻り来し葉書いちまい状差しに去りにしひとの記憶とどむる
2023-066:二階
二階家の軒先にある干しものを見上げておもふ老いの独り居
2023-067:乞
天災の地におこるたび乞ひ祈(の)むる人とはかくもちからなきもの
2023-068:捕
草むらのかたへに何を捕へしか意気やうやうと猫もどり来ぬ
2023-069:トンネル
トンネルにありて刹那を対峙する我でありつつ我ならぬもの
2023-070:請
「行きすぎた個人主義」なと人の言ふ安普請なる戦後の果てに
2023-071:感謝
権利よと言ひつつ強ひる感謝にはつはものどもの論理がにじむ
2023-072:惰
立て込める仕事のあひにてきたうな惰性でつくる三度の食事
2023-073:からくり
人形の動きさまざま回るたび飽かず眺むるからくり時計
2023-074:腫
立ちしごと浮腫んだ足をもてあまし電車にそつと靴を脱ぎけり
2023-075:案内
とし経れば道を聞かるること増えて案内(あない)のくちも達者になりぬ
2023-076:灰
鉢底はあさき湖底のたゆたひにただ灰釉(くわいいう)の色ふかくして
2023-077:畳
たまさかの宿なればよく日常は離(か)れてひさしき畳のくらし
2023-078:スマート
あさぢふのうさぎ小屋には要らぬものとしてスマート家電はありぬ
2023-079:僅
夜を徹し手に汗握るたたかひはワントライとふ僅差にをはる
2023-080:載
選歌なき結社にをれば駄作とも掲載さるる歌稿十五首
2023-081:手ごたえ
ゆりかもめ狭き日なたに吹きだまる川面にあはき春の手ごたへ
2023-082:侮
痛々しき誤字をネットに見ればこそ侮るなかれ学生時代
2023-083:浄
カードキー挿せばはつかな気配あり空気清浄機われを迎える
2023-084:授業
ウェブカメラに映る背後をかたづけて準備ととのふオンライン授業
2023-085:潤
休日のまへの一夜を潤(うる)かせば豆つややかに煮らるるを待つ
2023-086:派手
水槽に派手な衣装を誇るごとターンを決めるウミウシのあり
2023-087:汰
賀状には無沙汰わびつつ「そのうち」は訪はざることと互ひに知りぬ
2023-088:メンバー
オリジナルメンバーのままひとり欠け四十年(よそとせ)ののち聴くライディーン
2023-089:癒
ぬくもりは癒やしにあれな犬ねこを抱いて眠る兵士らの夜
2023-090:諮
おしとほすこと常なれば諮問とは名ばかりとなるこの国のすゑ
2023-091:ささやか
ささやかな夏のひかりを閉ぢ込めてゼリーは揺れるガラス器のなか
2023-092:房
うつくしき色を欲りてはヨウシュヤマゴボウの房を摘むさんぽみち
2023-093:預
あまつさへ偽預言者が跋扈する色のなき世のせまり来るとき
2023-094:希望
希望とふ花言葉もつ夢幻なれマツユキソウは誰が森に咲く
2023-095:滴
日を透かすカーテンのうち点滴のしづく眺むる午後の永遠
2023-096:雌
買ひきては種を植ゑたるアボカドの雌雄異株とて葉を賞むるのみ
2023-097:天気
まどの外(と)にふる天気雨あの丘のお稲荷さんに嫁入りがある
2023-098:辱
かろがろと和平を言へず隆辱が日常なりし軍場(いくさば)あれば
2023-099:備
貧しきにあてがふごとく放たれる期限まぢかの備蓄食料
2023-100:掛
ふたいろの旗はひつぎに掛けられて野辺の送りはどこまでつづく