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劇詩「暁の寺 遍獄の巻」第15の歌「宗教の野」 [日本短歌協会]

(浮舟)あな珍しや、原の彼方に人の影。いずこより時空世界の隧道を超え、此の原にたどり着きしか。此処はわれ世にし背きて辿り着きたる、昼もなく夜もなき原。此岸の果てに庵をかまえ、はや幾とせ。朝には萌え出ずる草も、夕べには萎るる倣い。菫摘む乙女のあれば、野ざらしの白き骨あり。訪う人の絶えてなければ、水鏡に己を映し、来し方行く末を己が心にとつおいつ、無為に日を過ぐしおり。風戦ぐ原の真中に仰ぎ見る樹ひともと、はた宇宙樹か、はた橘の幻か。散り敷ける花ほたほたと、尽くる命に悔いあらざるや。あまたの障り他人のゆえならず、荒める我が身より出でしものなり。現世のくさぐさ我を絡め取り、世を捨つることげに難し。髪おろしひとたびおみな捨てつるも、変容のすべを知らざれば、彼岸へと渡る能わず。生きながら死し、すえ山姥となり果てて、輪廻の糸を手繰るべし。いたづらに清けき葉ずれ時を超え、絡み合う根に繋がるる吾の耳に届かん。
蛍落つ穢土の彼方に棲まいして名もなき魂のただ生くるのみ。
現世を離れて幾とせ此の原にイグドラシルの葉ずれを聞かん。

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