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悪事やさしく~たそがれどきに優しいうたを(2012年版歌人年鑑掲載エッセイ) [日本短歌協会]

  たそがれの鼻唄よりも薔薇よりも悪事やさしく身に華やぎぬ (斎藤史・魚歌)

 たそがれ。世界が最も美しい時間のひとつだという。薄暮がすべてを包み込み、曖昧に溶かしてしまうからだろうか。昼の顔から夜の顔へ、さまざまなものが束の間すべり落ち、すり替わる刻の裂け目。
たそがれ時に激しい感情は似合わない。前出の歌も、「たそがれの鼻唄」も「薔薇」もやさしいことを前提としている。
では、それよりやさしい悪事とは何だろうか。実際に抱えている秘密か、心をよぎる妄想の類か。いずれにせよそれを思うだけで、身の裡が人知れず艶めくのだ。
 たそがれ時の複雑で刻々と変わる色彩はただ優しいだけではない。人もまた純白でも漆黒でもなく、複雑な色合いの混ざった存在だ。この先いくつになっても、どこかしら禍々しく、よからぬものが底流にある歌を詠みたいと思う。斎藤史が「悪事やさしく」と詠んだように、つかのまの秘め事や優しい嘘に似た悪事を孕む歌を。

  たそがれに咲く花のそも白ければ戦げるほどの悪事ならまし      真理子

(掲載時に空白行はありませんが、読みやすさを考え
1行空けた箇所があります)

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