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黄色の眸 [こころ]

情念てふ無数の狗を飼ひ殺す壷の底ひに黄の眸うごめく

   kurounmo.jpg

坂東眞砂子の「狗神」をモチーフにして作りました。
画像は、黒雲母の表面を撮った写真を加工したものです。

悪夢 [こころ]

ジャスミンの紅き燐寸や火の痣の頬に拡がる夢見たりけり

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まず、これから書くことは差別的表現を目的としたものではないので、
その旨ご諒解ください。
もしそう感じられた方があったらごめんなさい。
画像もイメージで選んだもので、記事の内容とは関係がありません。


数日前の明け方、悪夢で目がさめました。
自分の額から頬に拡がってゆく赤い染み。
前後は覚えておらず、顔に何かが流れている感触はなく、
ただただぞうっとする感覚だけが残りました。

それも、起きて家事をしているうちに忘れていたのですが、
近所のジャスミンの枝に、しなるほどたくさんの赤い蕾がついているのを
見たとき、マッチの束のようだと思った途端に記憶がよみがえり……。

2つのイメージを結びつけて詠みました。


アヴェ・マリア [こころ]

われ祈ることば持たねど流れ来るしらべにこころあづけぬ アヴェマリア

ゆふづつよおかせるつみをそのままにわがとものためいのるちからを



出先で偶然、カッチーニの「アヴェ・マリア」を耳にしました。

聞いたのは平原綾香さんが意訳し、スキャットも入ったアレンジものでしたが
曲自体の美しさ、希求の気持ちは変わっていないように思いました。

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「受胎告知」の絵はたくさんあり、エル・グレコもマルティーニも好きですが、 曲のイメージに合わせてダ・ヴィンチを選びました。

歌人・郷隼人を詠む [こころ]

戻りえぬ淵の深さよ殺(あや)むてふことばつかはぬ服役囚の

「朝日歌壇」を読んでいた方はご存じかもしれませんが、
郷隼人さんはアメリカで殺人の罪を犯し、
カリフォルニアで服役中の歌人です。

「殺める」ということばを直接使った歌を私は一首しか知りません。

郷さんのことは当初から好きで、「うたのわ」の好きな歌人に入れていましたが、
それを見た方でしょうね、「人を殺した人の歌がすばらしいなんて」という
意味のお歌を読まれたこともありました。
(抹消されたのか退会されたのか、今このお歌をみつけることはできません)

島秋人など死刑囚歌人の例はあるのですが、まだまだ偏見の目は厳しいのでしょう。


初ものの芹たぎる湯に放ちつつはるか異国の囚獄(ひとや)おもへり

郷さんの「独活三葉山葵筍紫蘇茗荷思いつつ食む獄食スパゲティ」に寄せて。
罪の軽重を云々しているのではありません。ひたすらソウルフードが恋しかろうと。


最近、笹公人さんのツイートに郷さんの歌が度々引用されるので
ちょっと驚いています。
笹さんと郷さんのうたは対極にあるような気がしていましたが、
案外そうでもないのかもしれません。

笹さんの引用された歌を転記します。

ロープ無し縄跳びの技編み出して/獄庭の隅にエクササイズす

指折りて五・七・五と歌詠めば/真似て指折るメキシカンの囚友(とも)

毎日のビタミン剤を欠かさずに/摂(と)り健康に留意す死刑囚


ちなみに、3首めのうたは冗談でも諧謔でもありません。
仮釈放なしの終身刑服役囚が刑務所を出るとき、それは
所内の病院では対処できないほど病気が重くなって、
外部の病院に移される時なのです。
刑務所を出るときは死ぬとき。
重罪を犯した服役囚でもやはり死は怖いのだ、という重い歌なのです。


LONESOME隼人

LONESOME隼人

  • 作者: 郷 隼人
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本



クレマチス [こころ]

クレマチス血汐に染みぬ夜の譜を織りなす指にその身を摘まれ

2週間前の今日、通りがかりの花屋さんで
深紅の鉄線をみかけました。

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ほんとうはもう少し臙脂に近い色です。

鉄線と言えば青紫系統か白、ピンクしか見たことがありません。
血のように赤い鉄線はどこか禍々しく……

とても気になりましたが、高価だったこともあり
買わずに帰りました。

今日、用事で同じ花屋さんの前を通りました。

すると、あの鉄線がまだあるにはあったのですが……。

花は色褪せて紫に近い色になり、新芽もつぼみもなく
妙に元気がありません。

よく見ると、茎のあちこちがセロテープで支柱に
とめてあります。

あんまりびっくりして、次には腹が立ってきました。
「こんなひどい養生のしかたをするなんて、
あんたらに花を売る資格はないっ!」と言いたいところ……
にっこりと怒りを抑え、花芽がついていないのを理由に
引けるだけ値引きさせて買いました。

(店頭でものを値切ったのは初めてです。
私、東京っ子なのに!
でも、ろくに面倒も見ず弱るだけ弱らせて定価のままというのが
また腹立たしかったのでつい……)

家に持ち帰り、茎を傷めないように苦心さんたん、
テープを剥がすのに30分ほどかかりました。

開放された鉄線は心なしか息をついたようで……
何とか育ってくれるといいんですが!

花茎をテープで止むる荒わざにあはれまさりてそを贖い来





 [こころ]

ものいはぬ野晒ひとつ抱きこもる櫻はいだく手にあまりけり

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野晒(のざらし)=されこうべのこと。
画像は月岡芳年の「小町桜の精」です。

題詠「玉」 [こころ]

藍玉の匂へるさとを訪ぬれば裡にやまとのおみな目覚めぬ

藍の匂いは独特で、あれを嗅ぐととても日本的な気持ちに……。

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うつしよと永遠(とは)のあはいを転(まろ)びゐるガラスの玉に何ぞ映らむ

ヘルマン・ヘッセの「ガラス玉遊戯」。
哲学的な小説だけに、うたに食い足りない感じが残ります。


ガラス玉演戯

ガラス玉演戯

  • 作者: ヘルマン ヘッセ
  • 出版社/メーカー: ブッキング
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 単行本




蒼き月照り映ゆる夜烏羽玉の夢枕にぞ君の立たなむ

3月30日は今年2度目のブルームーンでした。
ところで「射干玉」と「烏羽玉」って混同しやすいですね。私も気をつけねば。

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玉くしげみひらき満つるかなしみをしらぬ日々こそいと憂かりけれ

玉櫛笥(たまくしげ) は櫛を入れる小箱のこと。
箱だけに「身(「身もふたもない」の身ですね)」「開く」などにかかります。
漢字で書くとあまりにあからさまなのでひらがなに。

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赤い金魚燃えて消ゆるらし玉極るいのちの灰ぞさくら散りけむ

「赤い金魚は燃えて消えるよ 真っ白に 真っ白に 真っ白に…」は
Bonnie Pinkの「金魚」から取りました。

   goldfish_bonnie_pink.jpg

金魚

金魚

  • アーティスト: Bonnie Pink,トーレ・ヨハンソン
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 1998/05/20
  • メディア: CD



ニコライ堂の鐘 [こころ]

若き日の靴おとの絶え花のいろも永遠にこそあらねニコライの鐘

   Nicolai_do.jpg

若い頃本郷に勤めていたので、お茶の水は下車駅で
ニコライ堂もよく知っています。

私がシャンソンを教わった深緑夏代先生は、その昔
お茶の水に「ジロー」というシャンソン喫茶を持っておられました。

若き日のなかにし礼さんは、深緑先生に見出され
「ジロー」時代に、今も歌い継がれている数々の名訳を生んだそうです。

歌の下敷きにした曲はシャルル・アズナヴールの「ラ・ボエーム」。
訳詞されたのが1964年ですから、なかにしさんがまだ
駆け出しの頃だったろうと思います。

昨日最初にニコライの鐘を詠まれたお歌と
「ラ・ボエーム」の4番の歌詞を踏まえて詠みました。

ある日のこと 君と僕の愛の街角 訪ねてみた
リラも枯れて アパルトマンの影さえなく
歩き慣れた道も消えてた
若き日々の靴の音は聞こえなかった……

Sitting On The Dock Of The Bay [こころ]

春あらし鴎は傷を隠しをりドック・オブ・ザ・ベイ波逆巻きぬ

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春の嵐が吹き荒れた午後、港の方に行く用事がありました。

「Sitting On The Dock Of The Bay」はOtis Reddingの名曲。
発表された1968年当時は子供だったので、リアルタイムでは知りませんが、
今聴いてもいい曲だなと思います。


Sitting in the morning sun
I'll be sitting when the evening comes
Watching the ships roll in
And I watch 'em roll away again

Sitting on the dock of the bay
Watching the tide roll away
I'm just sitting on the dock of the bay
Wasting time

I left my home in Georgia
Headed for the 'Frisco bay
'Cause I had nothin to live for
And look like nothing's gonna come my way

So I'm just...
Sitting on the dock of the bay
Watching the tide roll away
I'm just sitting on the dock of the bay
Wasting time

Look like nothing's gonna change
Everything still remains the same
I can't do what ten people tell me to do
So I guess I'll remain the same

Sittin here resting my bones
And this loneliness won't leave me alone
It's two thousand miles I roamed
Just to make this dock my home

Now, I'm just...
Sitting on the dock of the bay
Watching the tide roll away
I'm just sitting on the dock of the bay
Wasting time

題詠「白」 [こころ]

うばたまの闇ふところに身を隠す白鳩ははや空をもとめず

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色はイメージを限定するから詠むのは難しいと言われた矢先のお題。

ぽっと頭に浮かんだのは、手品に使う鳩でした。

訓練に明け暮れる鳩が自由になりたいかどうか考えるなど
人間の傲慢でしょうが、飼い慣らされた鳥を自然に帰しても
生きていくことはできないでしょう……。

具体的なイメージを離れて「自由」を連想できるように
ことばをえらびました。
(枕詞など入れてる暇があったらもっと密度の高いことばを、と
言われそうですが……)

画像はルネ・マグリットの「大家族」です。