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劇詩「暁の寺 准獄の巻」第18の歌「青の玉」 [日本短歌協会]

(建礼門院右京大夫)残照は山の端に消えぬばたまの夜おとずれぬ。今宵しもときは七夕、たらい持ち出で行き逢いの星ふたつ映せば、過去の立ち昇りくる心地せり。筝の音を辿り記憶の海をさまよえば、そのかみに彦星のごと牛車もて吾を拉し去りしひとまなかいに立つ。公達と囃されしかどもののふの子にあればとて去りにしひとが西海の藻屑と消えて幾十年。今日とも知らず、明日とも知らず、遅れ先立つ人は、元のしずく、末の露より繁しと後の世に言いたるひとありとぞ。たのみたるひとを奪いし神ほとけ恨むこころもはや薄れ、髪もおろさず褪せにし袖の色こそ変えね、経うつしみほとけを描き、亡きひとを偲びつつ手遊びの歌にとき過ごしおり。我が歌の一首二首とてのちの世に伝うれば、思うことこそなからめれ。われらが一生、織女牽牛のそにあらずひさかたの空と海のはざまに流れ星のごとはかなし。遠からずわれ逝かむとき変わり果てたる現世を超え、君にまみえん。君が眸に彼の日うつりしわたつみの蒼、今宵われ抱きたる空の碧、ふたつの青の天上に再び出逢いひとつに溶けるとき、たまきわるときわの世にし結ぼおる永遠のいのちあれかし。


参考文献:
大原富枝『建礼門院右京大夫』(講談社文庫)
糸賀きみゑ『建礼門院右京大夫集』(武蔵野書院)

* 冊子「行き違いの」は「行き逢いの」の誤植です。


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