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【ゴッホの風】(2013年版歌人年鑑掲載歌12首) [日本短歌協会]

愛咬や散り敷く梅が香のとほく闇間に冴ゆる糸切歯かな

鳥のこゑ静寂を裂けり猥雑はアダンの蔭に身を潜めつつ

一滴の朱に麦ばたけ波立ちてざあとゴッホの風吹き渡る

唇(くち)ふさぐ蜻蛉の翅くろぐろとわたしのこゑを奪つてしまふ

存在は永遠にあやふし現世のうへ一本の錘(つむ)の立ちたり

月の面の蒼きくぼみは眠られず夜を咲ききりし花の墓碑銘(エピタフ)

秋めける風に名前を問ひかけつ夕顏の耳朶かすかに震ふ

弦に弓の触れ拉ぐとき漏れ出づる音ふくみつつ星は尾を曳く

ともすれば芽を吹きたがる種ひとつ潰せる意思は彼岸にあらめ

つと毀れ拡がりゆける卵黄にゆるき破戒のかなしみを見つ

薔薇の実を掌にころがせりげに丸く息づきもせで棘もつ我は

朔月のいろ吸はむとや毒薬(プワゾン)は黒きダリアの身ぬちにかをる


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