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性愛を詠む [恋愛]

難しい歌題です。

ともすれば卑近になります。

加えて、ことに女性の場合、実生活と絡めて解釈されれば
揶揄や非難の対象になることは想像に難くありません。

戦中から戦後にまたがって活動した歌人の湯浅真沙子や俳人の鈴木しづ子は
実生活と結びついた性を詠った女性ですが、
時代の波の中に消えていったのはやはり世の趨勢になじまなかったのかとも思います。

歌集 秘帳

歌集 秘帳

  • 作者: 湯浅 真沙子
  • 出版社/メーカー: 皓星社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 単行本



夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など

  • 作者: 鈴木 しづ子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2009/08/20
  • メディア: 単行本


比較して、「有夫恋」の時実新子や「ベッドサイド」の林あまりが
センセーショナルに取り上げられはしたものの少なからず共感を呼ぶのは、
性がそれだけオープンになったと言えるのでしょう。

有夫恋 (角川文庫)

有夫恋 (角川文庫)

  • 作者: 時実 新子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 文庫



ベッドサイド (新潮文庫)

ベッドサイド (新潮文庫)

  • 作者: 林 あまり
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 文庫


文壇でなくごく身近にみても、この手のジャンルの歌は好悪がはっきりします。
例えば「うたのわ」で普段交流があっても、もっと美しい恋愛観をお持ちで
この種の歌は絶対に好まない方もおられます。

私の場合、いったん踏み切ってしまえば挑戦することにさほど抵抗はありませんが。
加えて私の場合、どこかに実際そういった一面があるのでしょう。

まなうらに白き花火の拡ごりてかなしきまでにゆつくりと散る

愛咬や散り敷く梅が香のとほく闇間に冴ゆる糸切歯かな

夜を知らぬ快楽の果てに胸を噛む月の紅きを哭きし日のあり

髪撫づる巨きてのひら群れをなす泡立草の黄に神さぶる

君はそを釦と呼ぶか錦繍をまなうらに描くつみふかきもの


ちなみに、あえて解題を避けましたが五首目の「君」は男性ではありません。
「秘帳」を読まれた方はお分かりかと思います。

わが釦キスしたまへばつよき刺戟身うち轟く心地こそすれ
わが釦キスさるゝとき思はずも放つわがこえうらはづかしき(湯浅真沙子)


   rose_mesibe.jpg
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コメント 5

くまんパパ

「秘帳」はなぜか初版本を持っていますが、作者はその後行方不明になったのでしたっけ?
来歴も内容も、本当に哀しい歌集です。

今の目で見るとさほど過激ではありませんが、戦後すぐの時期には非常にスキャンダラスに扱われ、センセーションをも巻き起こしたようですね。

ちなみに、うちの妻にも読ませましたが、喜んで楽しんでいたようです。

エロス、エロティシズムをどこまで許容するかは人それぞれですが、上手く使えば(特に女性歌人にとっては)表現上の大きな武器になり得ると思います。
by くまんパパ (2010-12-17 15:44) 

purple_aster

仰る通りですね。

最近の性愛を扱った歌になると良くも悪くももっと即物的で
例えば月経などもあからさまに詠っており、
そのあたりが歌として受容されるかどうかについては
個人的には疑問が残ります。
歌は不特定多数の目に触れるもので、同性だけが読むものではありませんから。

『上手く使えば(特に女性歌人にとっては)表現上の大きな武器になり得る』
というお考えですが、
男性が性愛の歌を詠んだ場合について異性の方とお話したことがあります。
その方は男性が詠むとやはり直裁になってしまうというご意見でしたが
くまんパパさんはどうお考えですか。

by purple_aster (2010-12-20 23:13) 

くまんパパ

さうですね。林あまりの歌もひととほり読みましたが、ちよつとスゴイですね。

月のさはりのさなかに不倫のまぐはひをして、褥のうへに血がにぢんだといふやうな歌がありますが、むしろ若干の嫌悪感を覚えました。
作者がクリスチャンであることと、どう整合性がとれるのかなあ、などと思ひました。

「エロティシズム」という言い方が雑駁すぎましたが、私の念頭にあるのは、例えば「短歌人」仲間の敬愛する「文」さんの歌風などです(実名を出してはまずいのかも知れませんので、ここでは伏せさせていただきます)。
その方のブログです。
http://fumikohblue.at.webry.info/

非常に上手い方なのですが、時々、びめうにエロいんです。
・・・この方の場合は、とても成功していると思います。

で、「男性が性愛の歌を詠んだ場合について」ですか~。
なるほど~、言われてみれば、念頭にありませんでした。

・・・が、今ちょっと忙しくなってしまいましたので、改めまして続きを書きます~(^^)
by くまんパパ (2010-12-22 18:41) 

くまんパパ

一口に「エロティシズム」と言っても、ピンからキリまでありますよね。私も、あまり露骨・即物的・露悪的で下品なのは、もちろん嫌いです。

例えば、今問題になっている、東京都の青少年へのいわゆる「エロ漫画」販売の規制などは、僕なりに大賛成の立場です。

当地で伯母が、そうした青少年保護などの運動に長く関わっておりまして、賛同して調査を手伝ったこともありますので、僕もけっこう詳しい方だと思います。
ああいった類いのものを、可愛い子供には絶対見せられないと思っています。

ただ、時代状況・社会通念の変容によって、徐々に性愛的な表現の許容値が下がり、全体として開放的になってきているのは否めない事実でしょうね。
最近のNHKドラマ「セカンドバージン」での大胆な性描写なども、巷間評判になっているところです。

僕自身がそういった歌を作るかどうかは今のところ分かりませんが、文学にとって一定のエロティシズムの要素は許容され、かつ必須であると思います。表現の自由の観念は、もちろん大前提としてあります。
研ぎ澄まされ洗練された表現なら、ある程度アリかな~とも思っています。

つらつらおもんみますに、この問題は、結局は文芸の他のジャンル(小説や現代詩)をも含めた、民主主義的な先進国での国際標準(デファクト・スタンダード)が、最も客観的な判断基準になるのではないでしょうか。

遠からぬノーベル文学賞受賞が確実視される村上春樹の小説も主要作品はだいたい読みましたが、純でナイーヴな(?)中年世代の常識からすると、多くの作品で相当奔放でエロティックで、こりゃ「エロ小説」じゃないのか~?と思うこともあります。高橋源一郎の小説なども、も~エロとしかいいようがありません(笑)

このあたりは個人個人が、自己の許容値・閾値と相談して判断するしかないでしょうね。実作者ならなおさらです。
自分の中のものさし(メジャー)が最後の基準でしょうね。

なお、短歌史的には、同性愛(的感受性)の男の歌人がかなり多いですよね。
これは、昔の武士の嗜みでもあった「衆道」あたりの流れでしょうか?
・・・文芸評論家じゃないので、よく分かりませんが^^;

by くまんパパ (2010-12-24 14:04) 

purple_aster

くまんパパさま

丁寧なコメントをありがとうございました。
林あまりに限らず、性的ならぬ生理的なことをあまりあからさまに歌った詠は
わたしも抵抗を覚えます。

文さんは「そののち」でご一緒したことがあるように思います。
ブログはゆっくり拝見します。

性的表現が概ね解放に向かっているのは、詩歌ではありませんが伊藤整の「チャタレイ夫人」や
ロバート・メイプルソープの写真についての判決の変遷にもみることができます。

文学作品についていえば渡辺淳一なども問題になるでしょうね。

同性愛(的感受性)ですか。
たしかに性別を超えた、というかバイセクシュアル的感受性を感じることはあります。
by purple_aster (2010-12-26 13:48) 

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