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直球勝負 [恋愛]

今、穂村弘さんの「絶叫委員会」を読んでいます。


絶叫委員会

絶叫委員会

  • 作者: 穂村 弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本



穂村さんは歌人ですがこれは歌集でも歌論でもなく、
「巷で偶然生まれて消えてゆく詩」をテーマにしたエッセイです。

そのなかの「直球勝負」という章に、こんなエピソードがありました。

 ものすごい直球を投げるひとがいる。
 数年前に十人ほどの友人たちと温泉に行ったときのこと。そのなかには何組かの夫婦もいたのだが、男は男部屋、女は女部屋というかたちに分かれて泊まっていた。
 次の日の朝、我々男性陣が食堂に向かって歩いていると、向こうから連れの女性たちが歩いてきた。互いに「おはよう」を云いながら合流したのだが、そのとき、私の隣にいた男が彼の妻に向かって云った。

「今日もきれいだよ」

 ど真ん中のストレートだ。周囲の女性たちのなかには無言のうちにわーっという空気が広がり、男たちはびびりながら心のなかで(?)顔を見合わせた。奥さんは、何云ってんの、とむにゃむにゃ呟いて照れていたが、やっぱりどこか嬉しそうだった。
 このタイミングでのこれは普通なのか? 全ての夫が云うべき言葉? よく知らないがアメリカなどではそうなのか? 州によっては法律とかで? しかし、ここは日本の旅館で我々は浴衣姿なのである。とはいえ、彼の口調は自然で気負ったところがまるでなかった。生まれながらのクラーク・ゲーブルのように様になった愛情表現は、私の心に強く灼き付いた。


わかるわかる。この雰囲気。このあせりよう。
でもいいですよね。こう自然に言える人。
これを自然に受けとめられる人も。

気負いなく「愛している」と云ふ君に返すことばを我は持たざり

アメリカで青年期を過ごした知人を思い浮かべて詠みました。


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