群衆にまぎれて歩むこゑに出し蟻よさらばと言ひえぬままに
うしろ手に栖のドアを閉づるときみそかごころの芽ばえはげしき
局てふ厨のすみにうづくまりあらがふごとく赤茄子を食む
鯨波たえてひさしきいさなとり太地の海はけふも暮れゆく
うつくしき谷間の百合を語りあふ唯物論をうしろ手にして
爆音のただなかにゐて出口なき夜の迷路をマウスははしる
ひとたびは世のすゑを視し弱法師の目を閉ざしけりふたたびの修羅
いはひごととはほど遠き厨べに月餅ひとつもてあましをり
さまよへる夜ごとの影をかたはらにコンビニの灯のぼんやりと照る
愛咬や散り敷く梅が香のとほく闇間に冴ゆる糸切歯かな