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うたつかい2015年春号掲載相聞歌【朝桜】 [うたつかい]

咲き濡れし連理の枝の花やらむ枕辺に散る桜ちらはら(横雲)>


寄する手のうちにはなびら今宵しも世にいくたりの夜桜お七(紫苑)


露のよををしみ亀鳴く夢ぬちに水底の砂掬ひたる果て(横雲)


花筏ともに乗らむと夢そこひ波に揺らるる心地こそすれ(紫苑)


花の雨はた降り止まぬ遅き朝熱き珈琲カップに注ぐ(横雲)


珈琲のカップをひとつ受け取れば眼(まな)にやさしき桜雨ふる(紫苑)

うたつかい10月号掲載歌 [うたつかい]

<自由詠五首【谷間の百合】>

うつくしき谷間の百合を語りあふ唯物論をうしろ手にして

熟み割れし石榴のきずを探るかに血の実を食めるくちびる憎し

たかしるや天仰ぎつつ地に棲みぬつひの身に沁む一滴のあを

猫の足もちてゐるらしいつのまに胸ぬちへ入るわたしの孤独

仮初めにあらざればなほ―目をそらす。絶たなむ熱の、ままならぬまま。

<テーマ詠【魔法】>

むらさきの雲母(きらら)のうちに夜は更けてをととひを引く魔術師のゆび


うたつかい7月号掲載歌 [うたつかい]

<自由詠五首【夏の音綴(シラブル)】>

響き合ふ夏の音綴(シラブル)とりどりの野菜を白きうつはに盛れば

うす青の薩摩切子に唐芙蓉ひとつ浮かせば白南風の吹く

汝が剥きし桃ひときれはやはらかき接吻のごと喉(のみど)をすべる

女(め)を識らぬ童男(をぐな)のごとき青胡桃たなごころにし転ばせあそぶ

明日葉のつよき香りに思いをりけふ在ることの確かふたしか

<テーマ詠【海】>

ゆびさきに海岸線をなぞるごと猛る背骨の影うつくしき


うたつかい7月号掲載相聞歌【色めき開きゆくはちすの花を詠みて】 [うたつかい]

葩(はなびら)に濡れ色露を零(こぼ)しつつ潤みて堅き実を撫づる風(横雲)


しろたへの夕風なづる花の床に眠りし青き実のあらはれぬ(紫苑)


蓮花を亀のつつくや葉の揺れて映す水面に淡き波立つ(横雲)


みぢか夜や波たちやまぬ水の面に浮き葉の露をあまた結びぬ(紫苑)


はちす葉にまろびあひつつ白玉の触るるや果てて花開く朝(横雲)


咲き満てるはちすの花をふるはせて朝の鐘のはるかに聞こゆ(紫苑)


うたつかい4月号掲載歌 [うたつかい]

<自由詠五首【春あらし】>

陽に揺れるパンジーの色とりどりに春のいそぎは饒舌ならむ

我もまたいつぽんの筒春あらし吹き入る風の茫々と鳴る

絡め取る不穏のいろのまなうらを染めれば岐路に月の見えざり

春ひと日一歩を逸れる勇気なく海の辺にゆく列車をおくる

さくら一枝(いっし)ことばをわすれ眠りゐる刻の裂け目に雪は踊りぬ

<テーマ詠【色】>

曇天のしまくひとよにひはいろの林檎のかげの流れいでたる


うたつかい4月号掲載相聞歌【寝もせで明かす春の夜】 [うたつかい]

憂ひつつ寝もせで明かす春の夜ながめ恃むも影おぼろなり(横雲)

あふみとふしるべをたよりたまかづら面影したふ春のよひやみ(紫苑)

さす棹に舟揺らぎゆくあふみの海みるめ刈りつつなほやうらみし(横雲)

波だたふ海にゆらぐかふかみるの深めておもふ葉のうらおもて(紫苑)

なびき藻のくるや苦しきみだれ髪梳くや隠れし心濡れゆく(横雲)

おきつもの靡きもあえず梳く髪に揺るるこころのありとこそ知れ(紫苑)

うたつかい1月号掲載歌 [うたつかい]

<自由詠五首【薔薇の実】>

冬がすみたなびく丘の彼方より飛行機雲の天に伸びゆく

羽ばたかぬかげ曳きて飛ぶ隼を包める春の淡きひかりは

春まだき現世の風を知らぬげに黄のフリージア並び初むるも

薔薇の実を掌にころがせりげに丸く息づきもせで棘もつ我は

明けやらぬ野にひとすぢの梅が香を辿りても見む春の通ひ路

<テーマ詠【本】>

夜半すぎて小口のはつかあをみたる書にたどりゆく遠きことだま


うたつかい1月号掲載相聞歌【寝であかしつる春の夜に】 [うたつかい]

打ち靡く春さりきたり下草はしられぬ程に露結ぶなり(横雲)

あしひきの野は下草におく露をふふみてやさしかよひくる風(紫苑)

春風の下照る桃の甘き香やうつし身のなほ夢にまされる(横雲)

うちなびく春のなさけに夢ときく桃がほつえに啼くとりのこゑ(紫苑)

たけり綰(た)けをりしく波にのまれつつ寝であかししもあかぬ空かな(横雲)

いさらゐに名残の花の咲きつればゆふべの春を夢と思(も)ふやは(紫苑)



横雲さんのご提案で、

「春の夜、女のもとにまかりて、あしたにつかはしける
かくばかり寝であかしつる春の夜にいかに見えつる夢にかあるらむ 能宣」(新古今)

をもとにしたものです。

   

うたつかい9月号掲載歌 [うたつかい]

<自由詠五首【夕顔】>

秋めける風に名前を問ひかけつ夕顏の耳朶かすかに震ふ

落ち初めし胡桃の白き実を食めば月に眠れる青年の香よ

小さき死と背中合はせのいとなみを繰り返しつついや深みゆく

夜半ちかく髪おろせるに小さき葉のひらりと落ちぬいづくの名残

とつおいつ転がすうたに夜の更けて明日重ぬべき罪のかずかず
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<テーマ詠【2】>

秋夜ふけ影と二人で歩きをり虫すだく野に沈みゆくまま


うたつかい9月号掲載相聞歌【秋の野に咲きたる花を】 [うたつかい]

さを鹿の分け入る萩の花乱れ露こぼるるや偲びねになく(横雲)

波だたふ尾花に添うて咲く葛のくれなゐ深む秋のゆふぐれ(紫苑)

下露の色そふ玉の緒を繰りてなでしこの花満つるをたのむ(横雲)

おみなへし咲きたる野辺のまなうらに拡ごりゆけり焔のごとく(紫苑)

脱ぎかけし藤袴ぞも紫の香に酔ひ夢の短夜や明く(横雲)

差しのぶる腕(かひな)に寄りて目ざむればけふ咲きそむるあさがほの花(紫苑)



横雲さんのご提案で、山上憶良の
「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花  
萩の花 尾花葛花 撫子が花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」
をもとにしたものです。

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