095:樹（紫苑）

菩提樹（ローレル）の乙女をうたふひとあれば思ひ遙けしカンツォニエーレ

094:担（紫苑）

花籠を担（かた）ぐ乙女の背を追うて朝の風は小路をわたる

093:条件（紫苑）

花びらの黄（きい）は日ごとに色を変へ条件法のaimeraisを語る

092:童（紫苑）

母なるまへに女（をみな）なれ葛の葉のうらみ血のいろ大人の童話

091:締（紫苑）

組み玉の動きにあはせ帯締めに縒り合はさるる思ひくさぐさ

090:舌（紫苑）

あやまちの舌に結べる桜桃の茎のしなりよ日の翳りけり

089:喪（紫苑）

咲きしまま色喪（うしな）へるあぢさゐは骸（むくろ）のままに春迎ふらし

088:訂（紫苑）

我が咎を人な訂（ただ）しそ現世のひだ深きかなゆふがおの咲く

087:チャンス（紫苑）

ほの消ゆるワン・モア・チャンス暮れ方の桜木町に靄たちこむる

086:片（紫苑）

昼よるを分かたぬ部屋の片明り結び合ふ手の影を描けよ