まみゆればおのずと笑みののぼり来て能くせぬ恋の深謀遠慮
さくら一枝ことばをわすれ眠りゐる刻(とき)の裂け目に雪は踊りぬ
食といふいとなみもたぬ蜻蛉の迫るいのちの浄くあらなむ
情念のこゑ果てしなくこだまするひとのうつはに底の見へざり
応へをし君な債(はた)りそ肯へずまなこ伏せれば雪泥にじむ
そもそもの猫愛(かな)しきと思ひしにいまだ解きえぬ「南泉斬猫」
鶴首を一気呵成に引き上げし織部のあをはあたりをはらふ
くちびるに歌湧き出でぬ日もあれば百首のみちのかくもけはしき
厨辺のましろき湯気に閉ざされて妻たる我よ盲目であれ
貴石なと身に沿はざればむらさきの水晶ひとつ胸乳のうへに